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04/20 (日) 09:28更新

【肺がんの咳の特徴は?咳を含む諸症状の原因とケアについて】

[What are the characteristics of a cough caused by lung cancer? Causes and care of symptoms including coughing]
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【肺がんの咳の特徴は?咳を含む諸症状の原因とケアについて】


-もくじ-

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■ 肺がんの咳はどんな咳?
肺がんの咳の主な特徴

    1. 初期の咳
    2. 進行期の咳:湿った咳へ変化


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■ 肺がんの咳 原因 咳に伴う諸症状とその特徴

進行した肺がんの咳の原因

    1. 気管支の圧迫による影響

    2. 気管支の炎症による影響

諸症状)痰が絡む・血痰が出る理由

    1. 痰が絡む理由

    2. 血痰が出る理由

特徴)咳が悪化するタイミング

    1. 夜間

    2. 朝方

    3. 運動時


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■ 肺がんの咳の治療法と対処ケア法

医療での治療アプローチ

~進行度による治療の違い~

    1. ステージ I・II(早期)

    2. ステージ III(進行期)

    3. ステージ IV(末期)

日常生活での対処アプローチ

~咳を和らげる方法~

    1. 加湿と喉のケア

    2. 姿勢の工夫

    3. 呼吸法の活用

    4. 刺激物を避ける

介護でのケアアプローチ

    1. すぐにできる対応

    2. 夜間の咳への対策

    3. 介護者の負担を減らす工夫 


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■ まとめ

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(リード文)

「肺がんの咳は普通の風邪の咳とどう違うのか?」その違いが気になる方もいらっしゃると思います。実際、肺がんの咳には特徴があります。この記事では、肺がんの咳の特徴や原因を詳しく解説し、どのように対処すればよいのかという疑問にお答えします。

さらに、肺がんと診断された方が「咳の変化」に気づき、適切な対応を取ることで、残された時間をより穏やかに過ごせる一助となれば幸いです。
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肺がんの咳はどんな咳?

肺がんの咳は、一般的な風邪や気管支炎の咳とは異なり、⾧期間続くのが特徴です。また、肺がんの進行に応じて咳の特徴も変化します。初期のうちは軽い乾いた咳が多いですが、進行すると痰が絡む湿った咳に変わっていきます。また、咳が出る明確な理由がわからず、何週間も治らないことが多いのも特徴のひとつです。

咳が出ることで日常生活に支障をきたすことがあります。しかし、適切な対処によって症状を和らげることができます。生活の質(QOL)をできる限り維持してよりよく過ごすために、咳の特徴や進行による変化を理解し、無理なく向き合っていきましょう。


肺がんの咳の主な特徴

肺がんによる咳にはいくつかの特徴がありますが、病気の進行に伴って大きく以下の 2 つに分けられます。


・肺がん初期にみられる「乾いた咳(空咳)」

・肺がん進行期にみられる「湿った咳(痰が絡む咳)」




初期の咳:持続する乾いた咳(空咳- 痰はほとんど出ない)

肺がんがまだ小さい段階では、痰を伴わない乾いた咳(空咳)が主になります。この時期の咳は、「軽い違和感」「喉がくすぐったいような咳」といった形で現れることが多く、本人もそこまで気にしない場合が多いです。風邪のような咳とは違い「痰がほとんど出ないのに咳だけ続く」といった特徴があります。咳止めを飲んでも改善しにくいのもポイントです。

喫煙中の方やCOPD*をお持ちの方など、咳が元々続いている方の場合には、肺がんの初期症状としての咳は当然わかりにくくなります。乾いた咳でなく痰がからむような湿った咳が出ているケースもあります。

この時点で受診に至るのは、普段と比べて咳が悪化したことで受診されるケースです。咳が気になる方は普段との変化に着目してみてください。


COPDとは:たばこの煙など、有害物質が原因で気管支や肺が炎症を起こし、呼吸がしにくくなる病気



進行期の咳:湿った咳(痰を伴い時には血痰も)

肺がんが進行すると、がん自体が大きくなって気道が狭くなったり、気道内に炎症が起きたり、分泌物が増えたりすることで、痰を伴う湿った咳が増えてきます。特に、がんが気道を圧迫すると、痰の排出がスムーズにいかず、粘り気の強い痰や血痰( 痰に血が混じる)が出ることもあります。

また、痰の喀出がうまくできないことは、肺炎のリスクです。

夜や横になった時の咳の頻度も増えます。体力が奪われやすくなるため、無理のない範囲で咳を和らげる工夫が必要です。

咳が続くと、患者さんの睡眠不足や食欲不振につながるばかりか、同居するご家族の負担も増えていきます。




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肺がんの咳の原因 咳に伴う諸症状とその特徴

肺がんによる咳は、単なる風邪や気管支炎とは異なり、がん細胞の影響によって引き起こされます。肺には、異物を排出するための「防御反応」として咳を引き起こす仕組みがあるため、がん細胞が気管支に与える直接的な刺激に反応して咳が生じます。

また、肺がんが進行すると、腫瘍が気管支を圧迫したり、炎症を引き起こしたりすることで、神経が刺激され、慢性的な咳が生じます。痰の量が増えたり、血痰が見られたりすることもあります。

ここでは、肺がんの咳の原因を解説していきます。

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進行した肺がんの咳の原因

初期には、がん組織の気道への刺激が軽度で空咳が出ます。しかし、肺がんが進行すると、がん組織が気管支に直接大きな影響を及ぼし、咳が強くなっていきます。主なメカニズムは、以下の2つに分けられます。


・ 気管支の圧迫

・ 気管支の炎症


ここではそれぞれが引き起こす影響について解説していきます。



気管支の圧迫による影響:がん細胞が増殖する場所によっては、気管支の内側を狭めるだけでなく、外側から圧迫し、気道を狭くすることがあります。この狭窄によって空気の通りが妨げられると、肺が十分に酸素を取り込めなくなり、息苦しさや咳が生じます。特に、話している最中や体を動かしたときに咳が出やすくなるのが特徴です。


気管支の炎症による影響:がん細胞は気管支の粘膜を刺激し、炎症を引き起こすことがあります。この炎症が続くと、粘膜が敏感になり、わずかな刺激でも咳が出やすくなります。また、炎症によって粘液の分泌が増え、痰が絡みやすくなることもあります。

 

このように、肺がんによる咳は、単なる風邪の咳とは異なり、がん細胞が直接気管支に影響を及ぼすことで発生します。そのため咳止めがなかなか効かず、長期にわたり咳の症状が続きます。


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諸症状)痰が絡む・血痰が出る

進行した肺がんによる咳には、痰が絡む、血痰が出るという特徴があります。

これらの症状が出る理由を知ることで、病気の進行度や適切な対策を考える手助けになります。


1.痰が絡む理由:肺がんが進行すると、気管支や肺の内部で炎症が続いて、徐々に粘液の分泌が増えます。粘液(痰)は、異物を排出する役割を果たしますが、気管支が狭くなっていると痰が外に出にくくなり、絡みやすくなります。また、痰は元々無色透明ですが、細菌感染が加わると、痰が黄色や緑色になることがあります。


2.血痰が出る理由:がん細胞が気管支や肺の内部に広がると、周囲の血管が破れやすくなります。咳をするなどして血管が破れると、痰に血が混じる「血痰」が見られることがあります。血痰の量が増えたり、頻繁に見られたりする場合は、肺の内部での出血が進んでいる可能性もあります。

(※近い言葉として喀血がありますが、これは血痰に含まれる血液の割合が多いものです。)




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特徴 咳が悪化するタイミング(夜間・朝方・運動時)

肺がんによる咳は、一日中続くこともありますが、特に夜間や朝方、運動時に悪化しやすい特徴があります。これは、体の状態や環境の変化が影響しているためです。


1.夜間:夜、横になるとリラックスし、副交感神経が優位になります。副交感神経は気管支を狭くする方向に働く上、粘液の分泌を活発にするため、空気の通りが悪くなります。また、増えてしまった痰が喉に溜まりやすくなるため、むせるような咳が出やすくなります。乾燥した空気も影響し、喉が刺激されることで咳が止まらなくなることもあります。


2.朝方:朝方は、夜間に溜まった痰を排出しようとするため、咳が増えます。特に、気管支に炎症があると、朝の咳が強くなりやすいです。起床時に強い咳が続く場合は、加湿や水分補給で喉の負担を減らすことが大切です。


3.運動時:体を動かすと、呼吸が激しくなり、気管支への刺激が増えます。また、肺の機能が低下していると、酸素を十分に取り込めず、咳が出やすくなります。特に、階段の上り下りや⾧時間の歩行で息苦しさを感じる場合は、休憩を挟みながら無理のない範囲で動くことが重要です。


このように咳や痰の変化に気をつけることで、生活もしやすくなりますし、病状の進行を把握しやすくなります。また症状を記録し、医師と共有することで、より適切なケアにつなげることができます。


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肺がんの咳の治療と対処法およびケア

治療法は、がんの進行度や症状によって異なりますが、基本的には がんの治療と症状緩和の両面からアプローチします。進行がんでは手術や放射線、薬物療法(化学療法・分子標的薬・免疫療法)を組み合わせ、腫瘍の縮小を目指します。同時に、咳そのものを和らげるために 鎮咳薬(咳を抑える薬)や去痰薬(痰を出しやすくする薬)を使用します。さらに、加湿・水分補給・姿勢の工夫など、日常的にできるケアも重要です。

「咳が続くことで体力が奪われ、睡眠不足になる」という悩みを抱える患者さんは多いのですが、適切な対策を取ることで 残された時間をより快適に過ごすことが可能です。咳そのものをなくすことは難しくても、「少しでも楽にする」という意識でケアを模索していきましょう。

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医療での治療アプローチ

肺がんの治療は がんの進行度(ステージ) によって異なります。進行度ごとに適した治療法を紹介します。


~進行度によるがん治療法~


1.ステージ I・II(早期)がんが狭い範囲にとどまっているため、手術が第一選択肢となります。腫瘍を切除することで、根治を目指します。手術が難しい場合は 放射線治療が選択肢となり、がん細胞を破壊して咳の軽減を図ります。放射線治療は、咳や血痰の症状改善に効果的で、対症療法としても有効な手段です。


2.ステージ III(進行期)リンパ節への転移が見られるため、手術だけでは対応が難しいことが多く、放射線治療と化学療法を併用することで腫瘍を縮小させます。進行度によっては手術が可能なケースもあります。


3.ステージ IV(末期)がんが他の臓器に転移しているため、薬物療法(化学療法・分子標的薬・免疫療法) が主体となります。がんを完全に治すのは難しくなりますが、がんの進行を抑え、症状を軽減することが目的 です。




進行がんの咳は 腫瘍の縮小によって軽減するケースもありますが、完全に止まるわけではありません。そのため、治療と並行して、日常的な咳の対策も大切になります。



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日常生活でのアプローチ

肺がんの咳は完全に止めることが難しいため、症状を和らげる工夫が重要です。


~咳を和らげる方法~


1.加湿と喉のケア:乾燥は、咳を悪化させるほか、痰の水分を奪って痰を固くしてしまいます。加湿器を使用する・濡れタオルを部屋に干すなどの工夫をしましょう。痰もやわらかくなり出しやすくなります。また、こまめに水分をとることで喉を潤し、咳の喉への刺激を和らげます。蜂蜜入りの温かい飲み物やのど飴も効果的です。

はちみつには喉の炎症を抑えて咳を和らげることがわかっています。



2.姿勢の工夫:寝るときは 上半身を少し高く(30~45度)すると、気道が広がり呼吸が楽になります。昼間もソファや座椅子で リクライニングを調整することで、咳が出にくくなることがあります。上半身を高くすることで、胃酸の逆流を抑えたり、誤嚥を減らしたりする効果も期待できます。


3.呼吸法の活用:ゆっくり鼻から息を吸って口から吐く腹式呼吸を意識すると、呼吸が楽になり咳が和らぐことがあります。ストレスが咳を悪化させることもあるため、リラックスする時間を意識して作りましょう。


4.刺激物を避ける:タバコや強い香りのするもの(香水・線香)などは、咳を誘発する原因になります。可能な範囲で空気を清潔に保つ よう心がけましょう。また、食事でも刺激物を摂ることで胃酸が逆流して咳が出ることがあります。食事の量をほどほどにして、刺激物、アルコール、カフェイン摂取を控えると良いでしょう。


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介護でのケアアプローチ

介護する立場の方にとって、患者さんの咳がひどく、苦しそうにしている姿を見るのはつらいものです。「咳を和らげる方法」でご紹介した内容を踏まえながら、今すぐ実践できる咳を少しでも楽にする方法をご紹介します。


1.すぐにできる対応 

・咳が続くときは 水やぬるま湯を飲ませる(誤嚥に注意)

・部屋の湿度を 50~60%を目安に高めに保つ


2.夜間の咳への対策

夜間の咳は 患者さんの睡眠を妨げ、体力の消耗につながります。

・枕の高さを調整する(気道を確保するため)

・就寝に先駆けてこまめに水分をとって喉を潤す

・咳が出やすい寝る前に加湿や姿勢の調整を行う


3.介護者の負担を減らす工夫

介護する方自身も、疲れが溜まりすぎると体調を崩してしまいます。

患者さんの咳のつらさを和らげながら 「穏やかに過ごせる時間」を増やすことが、介護者にとっても大切なポイントです。


・家族で役割分担をする(ひとりに負担が集中しないように)

・訪問看護や在宅医療のサポートを活用する

・少しでも休める時間を確保する


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まとめ

肺がんを患う方にとって「咳」は避けられない症状かもしれません。

咳が続くたびに、不安や悲しみが募ることもあるでしょう。それでも、少しでも快適に暮らす工夫を重ねることで、日々を穏やかに過ごせると思います。

限られた時間だからこそ、ご本人が暮らしてきたごく当たり前の暮らしの延長線上で、一緒に過ごすことが何よりも大切なことかもしれません。共に過ごすかけがえのないひと時が、やがて温かい記憶となりますよう、この記事が少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。


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参考文献

https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/about.html 国立がん研究センター

https://www.haigan.gr.jp/ 日本肺癌学会

https://www.jrs.or.jp/ 日本呼吸器学会

Tani H, Yamaga M, Sekiya T, Isohama Y, Koshino H, Nogawa T, Yamaki A, Takahashi S. Identification of a new pyrrolyl pyridoindole alkaloid, Melpyrrole, and Flazin from honey and their cough-suppressing effect in guinea pigs. J Agric Food Chem. [年];巻:[ページ範囲]. doi: 10.1021/acs.jafc.3c03864.

https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/respira01.pdf がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン





監修:医師 松岡 雄治

企画構成:Life Star 編集部



【クレジット表記】

①御名前

松岡 雄治(まつおか たけはる)先生


②先生の略歴とご紹介文

現在は、関東の基幹病院で医師として勤務しています。

専門は麻酔科です。手術前後の患者さんのご不安に寄り添い、確かな技術で安心安全な医療を提供します。

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